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社内ツールカオスマップを作成した際のポイントと留意点

 

 情報システム部門では、社内で使用されているツールの一覧を1枚のスライドにまとめる「社内ツールカオスマップ」が少しだけ流行っています。私も経営陣からの要望でカオスマップを作成する機会に恵まれたので、作成の過程と留意点を解説します。

社内ツールカオスマップとは?

 社内ツールカオスマップとは、社内で使用されているツールの一覧を1枚のスライドにまとめたものです。

 Corporate Engineer Nightで吉田航さんが発表された「社内ツールカオスマップを作ろう!」というLTをきっかけに、多くの会社の情報システム部門でカオスマップが作成されてきました。

※上記の図も同LTのものを引用させて頂いております

社内ツールカオスマップを作成する目的

 社内ツールカオスマップを作成する目的には大きく2つあります。

社内向けにシステム入れ替えのロードマップを示す

 1つの目的は社内向けに、システム入れ替えのロードマップを示すものです。

 多くの場合、システム入れ替えは一朝一夕には進みません。予算的にも情報システム部門のリソース的にも、年単位の時間をかけて徐々に行っていくものです。

 また会社の中で使用されているシステムは多岐に渡り、全貌の把握が困難である事も珍しくありません。

 ツールの全貌と現状・理想の比較が2枚のスライドで可能になるカオスマップは、特に経営陣への説明において威力を発揮します。

社外向けに自社の先進性を示す

 もう1つの目的は、社外向けに自社の先進性を示す事にあります。

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 会社で使用されているツールは、その会社のシステムに対する考え方をそのまま反映しています。オンプレミスかクラウドか。境界型防御かゼロトラストか。果ては会計や人事、契約においてどんなツールを利用しているかという点は、会社のシステム投資や業務効率化に対する考え方を色濃く反映します。

 そして社内ツールの選択に自信を持てる会社であれば、カオスマップの公開は自社の技術力のアピールになります。使用ツールが自身の経験してきたツールであったり、これから触りたいツールだったりする事は、情報システム部門の求職者にとっても非常に魅力的です。

 このように社内ツールカオスマップは技術広報としての側面も持っていると思われます。

自身が社内ツールカオスマップを作成した経緯と留意点

 社内ツールの1つを経営陣が知らなかった事をきっかけに、上長から依頼をもらって社内ツールカオスマップを作成する事になりました。

 ツールの一覧を作成しようとすると、どこまでを対象にするかという点が焦点になります。作成の際には下記の点に気を付けました。

事業部単位だけで使用しているツールは含めない

 自分の所属する会社では、情報システム部門がライセンス管理を行っていないツールも多数ありました。事業部単位で経費を出して使用しているツールも多くあったのですが、こちらは全貌を把握する事が困難なので対象から外しました。

 イメージとしては「第一営業部」だけで使用しているツールは対象から外すようなイメージです。一方で開発部門で使用するツール(コード管理・デプロイ・テスト等)やマーケティング部門で使用するツール(広告・宣伝系)は、部門単位といえば部門単位なのですが、全社で利用していると判断してカオスマップ内に含めました。

内製ツールは含めない

 自社では多くの内製ツールが作成されていますが、こちらは含めませんでした。基本的には内製のツールは、外部サービスでの集計等を効率化する手段という考え方をしました。

 例えば自社の会計システムを全て内製しているのであれば、これは含めた方が適切だと思います。一方で会計ソフトが1つあった上で、会計処理に関わる様々な内製の効率化ツールがあるなら、これは含めない方が焦点がぼやけずに済むでしょう。

フリーソフトは含めない

 自社ではフリーソフトの利用を特に禁止しておりません。WinSCPやTeraterm、VSCodeは比較的全社で利用されておりますが、こちらは対象に含めませんでした。

 これは社内ツールカオスマップの作成の意図の中に、経費コントロールという側面があった事が理由です。

 社内で使用されているフリーソフトを知る事で得られる効果は、現場間のノウハウ共有か、有料ツールへの移行を検討できる事だと思います。しかし主眼が経費面にある場合、これらの効果によって得られるメリットは限定的です。

社内ツールカオスマップを作成する際のポイント

 これらの制限を加え、対象となるツールを絞り込んでも、社内のツール一覧を挙げるのは意外と大変です。カオスマップを完成させるためには以下の点が重要だと感じました。

大分類は事業部門よりもさらに大枠で捉える

 社内ツールカオスマップにはそこまで明確な定義がなく、ツールをどうカテゴライズするかという点はある程度カオスマップの作成者に委ねられています。

 もちろん会社の部門や職種を大分類へ反映させるのは1つです。自分の場合なら制作・デザイン・開発・管理の4つの大分類を作成する事も可能ではありました。

 しかし社内ツールという観点だと、部門単位では偏りが出ます。

 バックオフィス系の部門は、部署単位で使用するツールが変わります。経理は会計ソフトを使いますし、法務は契約に関するツールを使っています。これらは全社の体制に関する話ですから、社内ツールカオスマップには掲載する場合が多いでしょう。

 一方で営業系の部門であれば、部署は扱う製品や担当する地域によって分けられるため、部署によって使用するツールが大きく変わる事はあまりありません。また違うツールを使っていたとしても、部署での利用が会社全体としての利用を意味する事にはなりません。

 自分の場合は利益部門・間接部門・全社共通でツールの大分類を設定しました。事業部門という単位よりもさらに大きな枠で捉えた方が、ツールの整理にはちょうどいい単位だと感じました。

現状(As-Is)のカオスマップを作成するには他部門にヒアリングできる人がいる事が重要

 現状を把握するには、他部門にヒアリングできる人がいる事が重要でした。

 会社によっては、情報システム部門で利用している全てのツールを管理できている場合もあるかもしれません。

 しかしツール自体を知る事はできても、大分類よりさらに小さい単位でツールをどうカテゴリ分けするかという点は、各部門の視点を反映する必要があります。会社で使用されている全てのツールの概要を把握しておくというのも意外と難しいものです。

 よく使っているツールを教えてもらうだけであれば、自分の場合はどの人に聞いても10分程度で済みましたが、複数名に聞いてみる必要はありました。気軽に聞ける関係があるかどうかはハードルの高さを左右しそうです。

理想(To-Be)のカオスマップを作成するにはアンテナを張るのが重要

 一方で理想を描くには、ヒアリングよりも、自分のアンテナの高さが重要になってきます。ツールを使用している各部門の人は、必ずしも他のツールに詳しいわけではないからです。

 特に全社共通で使用するようなツールについては、情報システム部門でなければ関心を持つ事はほとんどないでしょう。チャットツールはSlack・Teams・Google Chat・Chatwork・LINE Worksのどれがいいのか。DiscodeやMattermostは企業で利用する選択肢に入るのか…という所はほとんどの人が関心を持つ部分ではありません。仮に不満があっても、現場手動でチャットツールを入れ替えるような事は極めて困難だからです。

 こうした仕事における「メタ的」とも言える部分に関心を持ち、影響力を与えられるのは、社内ツールカオスマップを作成するような立場の人になってきます。だからこそ自分自身がどこまでアンテナを高く張っているのかというのが重要になってくると感じました。

費用面や利用者数もある程度抑えておく

 これは社内向けの資料の時の特徴かもしれませんが、費用面と利用者数は必ず確認されると思っていいでしょう。

 数十のツールがあれば、ツール名と機能は頭に入れられても、費用や購入ライセンス数までを即答するのはかなり厳しいと思います。説明を行う前には十分な準備を行っておいた方がいいでしょう。

社内ツールカオスマップをコミュニケーションのツールに使おう

 ここまでの事に配慮し、概ね5時間程度で社内ツールカオスマップの作成を終えました。カオスマップの存在が認知されたので、これから時々参照される図になっていきそうです。

 会社や目的によって要点は大きく変わると思いますが、参考にしてもらえればと思います。